丸重金物店 喜多重夫さん

インタビュー企画「あきんど道商店街のヒト」は、近江八幡市の旧市街地(仲屋町(すあいちょう)・為心町(いしんちょう)・魚屋町(うわいちょう)・新町)に所在する「あきんど道商店街」と関わりのある「ヒト」へのインタビューを通じて、人や地域の魅力を伝えながら、商店街のより良い未来も考える企画です。

今回の「あきんど道商店街のヒト」は、創業100年の歴史を誇る老舗「丸重金物店」4代目店主・喜多重夫さんにインタビューさせていただきました。 仲屋町で生まれ育ち、家業を継いで50年。時代と共に移り変わる商店街の風景を長い間見守ってきた喜多さんは、どんな商いをし、何を大切に思い、これからの時代の商店街をどう見ているのでしょうか。お話を伺ってきました。

プロフィール:喜多重夫さん 仲屋町出身。3代続いてきた金物屋を継いで50年。

100年の歴史と懐かしさを 感じさせてくれる金物用品店

——まず最初に、喜多さんとお店との関わりを教えていただけますか?

喜多さん:私はこの店の裏手にある家で生まれました。この新聞記事に載っている年末の売り出し「はちまんいち」が始まった昭和41年は小学生か中学生でしたわ。

新聞記事の写真:喜多さん提供

このころは、東京の方でも歩行者天国というのをやりだしたときですね。そやけど、この「はちまんいち」の歩行者天国が全国でも一番にやり始めたそうで、東京の歩行者天国よりも「はちまんいち」のほうが先輩だと、いうことがこの記事に書いてますわ。 このときはスーパーなんかありませんもんね。だからお客さんは国鉄バスに乗って、野洲、竜王、安土やらこの辺の地域からみんなが八幡へ買い物に来ておられましたね。 大学時代は経営学を学びに京都に通っていました。今はもっと早う行けるけど、朝5時50分の電車に乗って、ここから2時間かけて大学まで通っていたんです。 大学卒業後、このお店を継いで、私で4代目になります。丸重金物店は約100年くらいの歴史がありますが、最初は金物屋ではなく畳屋さんをやっていたそうです。その後、先代が娘に畳屋をあげてしもうて、新しく起こしたのが金物屋なんです。 先代が金物屋を始めた当初は、家庭用品というようなものはなく、建築金物関係を売っていました。昔のことですから、プラスチックとかなかったんですよ。何でも金物でできたもの、釘とかノコギリとかを売ってました。おじいさんの時代には早朝から仕事を始める大工さんのために、朝の6時頃から夜の9時頃までお店をやってたそうです。

——レジの下の棚にはレトロな商品が沢山並んでますね。

喜多さん:これは「昔の売れ残りゾーン」です。「売れ残りゾーン」っちゅうたらおかしいけど、昔の水筒やらミルクグラスやら、メンソレータムの入れ物やら、昔こういうものを売ってたわけですわ。

——昔こんなかわいい真鍮のヤカンもあったんですね! 先日、「丸重金物店さんに入ったら、懐かしいアルミのお弁当箱があったりして、もう何時間でもお店にいられる。お店の商品を見るのがすごく楽しい!」と言っている方と出会いました。

喜多さん:そうですか(笑)。そういうのを欲しがられる方もたまにいらっしゃいますね。ただ、最近は仕入れたくても、そういう商品は仕入れられなくなってきてますからね。 今の若い方は好みも様々になってきていますね。昔は女性向けに赤とかピンクの商品を仕入れて置いとったんだけれど、今は女性もブルーを好んで買っていったりして、仕入れは結構難しいんですよ。好みの変化もそうですが、メーカーさんがかなり廃業されているんです。アルミ関係でもいろんなメーカーさんが昔はあったんですけど、今はもう家庭用品、みんな廃業してしまって。そういう意味でも色々考えながら仕入れています。

ものを大切にするお客様が 修理や相談に来ることを考えて準備をしておく

——もともとは業者向けの商品が多かったそうですが、今は家庭用商品の取り扱いが多いのですか?お店を見ると、すごく豊富に商品を取り揃えていますね。 喜多さん:税理士さんには「在庫を持ちすぎや」と言われています(笑)。せやけど、これは金物店というか家庭用品店の宿命みたいなもので、昔に売れたものを今でも大事に使ってくれているお客さんがいて、替えの部品があるかと訪ねてくることがありますからね。物を売ったら責任をもってアフターサービスをせんなならんという意識から替えの部品を買っておくということをしているので、大体の部品が在庫になってしまうこともあります(笑)。たとえば、昔は魔法瓶の内側はガラスでしたから、中が割れたりしたらお客さんがお店に持ってきてくれて、ガラスを入れ替えて使えるようにしたりとかそういうことをしてましたからね。 昔は多くの人がものをたくさんしてきたからこそ、修理や部品交換などのアフターサービスも多く行ってきたけど、今はものを大事にするより新しいものを購入する時代になってきましたね。昔の人はお家を建てるのでも、普請のしっかりした後世に残る建物を建てようという思いがあったんですけどね。だから昔の人は品物ひとつにしても愛着があったのかなと思います。今は「自分らの世代さえお家が守られればいい」というような考えが多くなってきたのではと感じていますね。

——金物屋さんは、きっとたくさんの商品やその部品ごとにの色々な知識を持っていないとできないですよね。結構大変なんじゃないですか?

喜多さん:新たに金物屋さんをしようと思ったらなかなか大変やと思いますわ。私ら、わからんなりに昔から叩き込まれてるような感じで、何かあっても大概はどうしたらええか想像がつきますけどね。無い物があったら、自分で部品をこしらえたりすることもあります。 たとえば、ホームセンターでは売られていないようなもの、ネジ釘でも真鍮のネジ釘で、ドライバーを入れるところがプラスじゃなくてマイナスの方をくれ、とかそういう珍しい商品を探して来られる方もいますね。

地元の人も観光客も、 どちらも来てくれる商店街へ

——あきんど道商店街で平成29年度に行われた商店街活性化推進調査資料によると、昭和40年代から続いている「はちまんいち」や「北海道味まつり」の来訪者は、60代や70代の地元の人が多く、昔から来ている人が今も継続して来てくれていることがわかりました。こういう地域のイベントが愛着を持たれてずっと続いているのは、すごく良いことですね。

喜多:そうですね、地元のみなさんは愛着を持ってくださっているかなと思います。祭りやイベントがあると人が集まって賑わうから大事だけど、やっぱり「続ける」ということが一番やとは思うんやけどね。 商店街の先輩たちが後輩へとバトンタッチしてきたものの中には、「このまちを良くしていこう」という思いがありました。だから、たくさんの方がいろんな場所から来られて、いろんなおしゃべりもでき、賑わっていたんだと思います。

——お話を伺った約50年を振り返ると、もともと商店街は地元の人たちが生活用品を買いに来る場所だったところから、近年は多くの観光客がやって来る場所に少しずつ変わっていきました。しかし、昨年から新型コロナウイルスの影響でその観光客が来られなくなる事態になってしまった。これまでも、商店街は大なり小なり社会情勢による影響を受けつつ、その都度変化しながらやってこられたと思いますが、未来がより予測しづらいこれからの時代、この商店街がどうなっていくと良いと思われますか。

喜多さん:京都あたりでも、お店が集まれば集まるほど、いろんな方が来られますよね。だからお店は増えるほうがいいと思うんですけどね。観光客向けのお店ばっかりでなく、地元の人も来られるような、色々なお店が集まるといいなと思います。

私は、商店街には生鮮産品が必要だと思うんですけどね。毎日のものですから、これがあると人が通られるからね。食料品を買うついでに他のお店にも寄ろうということにもなってくる。人の流れちゅうのは、ないとね。

ちょっと欲が深いかもわからんけど、商店街は地元の方にも使っていただきたいし、今の時代では観光客の方も来てほしいなと思っていますね。 昔の近江商人は地元の商品を県外で売って、今度は県外の地場産業のものを仕入れて地元に持って帰って売るという、往復で商売する「のこぎり商い」をされてました。近江商人はそのような商売の仕方をしとったけど、これからの時代時代に合わせて商売の方法はいろいろ変えてもいいんやないかとは思いますね。

—————編集後記—————

「老舗のお店の店主さん」 「店内には包丁や鍋などの金物やペンキ、釘などの日用品など多種多様な商品が陳列されている」

この2つの情報だけを持って、インタビューに伺ったので、最初は勝手に緊張していたのですが、お話しするととてもきさくな方で、優しく接してくださった喜多さん。お話の中では、たくさんの専門メーカーさんの名前や、細かい部品や商品のお話しも聞かせてくださいました。50年かけて積み上げてこられたその知識量は本当に膨大で、それがあるからこそお客さんの急な相談に乗れたり、アフターサービスもできるのだと感じました。

店内には、替えの部品だったり、名入れのできる包丁、木や竹でできた道具や漬物桶などが並べられ、時には懐かしさを感じる商品も目に入ります。扉を開けて中に入ると、少し古くなったらすぐに買い替えるのではなく、傷んだ部品を取り代えて使い続けることや、物を大事に扱い丁寧に暮らすという感覚が自然と心に戻ってくるような、そんな素敵なお店です。

道具を揃えて暮らしを少し豊かにしたいと思わせるワクワク感と、懐かしくてやさしさを感じる「丸重金物店」。 なにか壊れたり探している商品があったら ぜひ喜多さんに相談してみてください。

 

INFORMATION
丸重金物店
〒523-0863
滋賀県近江八幡市仲屋町27
TEL:0748-32-2553