中島多吉商店 中嶋憲一さん、利里さん

インタビュー企画「あきんど道商店街のヒト」は、近江八幡市の旧市街地(仲屋町(すあいちょう)・為心町(いしんちょう)・魚屋町(うわいちょう)・新町)に所在する「あきんど道商店街」と関わりのある「ヒト」へのインタビューを通じて、人や地域の魅力を伝えながら、商店街のより良い未来も考える企画です。

今回の「あきんど道商店街のヒト」は、明治創業からアンティーク雑貨・古美術品を取り扱い100年の歴史を誇る老舗「中島多吉商店」の5代目である中嶋憲一さん、利里さん夫妻にインタビューさせていただきました。

日頃から骨董品とその背景にある数百年の歴史と向き合いながら、目の前のお客さまや今の時代にも想いを馳せる中嶋夫妻は、これまでどのような経験を経て、何を大切に思い、これからの時代の商店街をどう見ているのでしょうか。お話を伺ってきました。

プロフィール 中嶋憲一:昭和42年、近江八幡生まれ。学生時代から美術史を学び、企業の広告宣伝部での経験を経て、2012年より5代目店主として「中島多吉商店」を継ぐ。 中嶋利里:神奈川生まれ。憲一さん同様、企業の広告宣伝部での経験を経て、近江八幡へ移住。音楽にも長け、ピアノ教室も運営している。  

仲の良いご家族が営む 温かい骨董品店

——以前、私の仕事の一貫で、近江八幡の町並みの景観調査をさせてもらったことがあって、そのときに大学の先生が「中島多吉商店さんの建物がこの辺では一番古いんじゃないか」と言ってたんですよ。町屋調査の資料から、ここは築250年ぐらいは経ってるんじゃないって。 利里さん:そうですね、お店の裏の母屋のほうには、江戸時代に焼けた八幡城のお柱があるんですよ。 憲一さん:岡田弥三右衛門という江戸時代初期の商人だった方がここに住んでおられたときに八幡城の廃材をこちらに持って来られたのではと聞いています。岡田弥三右衛門さんが北海道へ行かれるとのことで、そのあとにこの家を買って商売を始めたのが、うちの先代の中島多吉という方なんですよ。

 

——お二人はどのような経緯でこのお店に携わるようになったのか、教えていただけますか?

憲一さん:私は近江八幡に生まれまして、大学へ行くまではずっとここで育ちました。 私が子どもの頃の記憶では、近江八幡はこんなに観光地化していなくて、外からたくさん人が来るようなところではなかったですね。 商店街は地元の人が買い物に来る場所で、この周辺も、うちのお店の隣の隣がお菓子屋さんで、目の前が本屋さんだったり。そのほかにも八百屋さんやコロッケ屋さん、畳屋さん、自転車屋さんとかほんまにいろいろなお店が並んでいて、いわゆる商店街の風景が広がっていました。魚屋さんだけはなかったので、魚屋さんは当時から売りにくるスタイルでしたね。

私は大学では文学部に進学し、美術史学を専攻していましました。最初は、フランスの印象派とか東洋美術の絵が好きだったんですけど、色々な美術館に足を運んでいるうちに、水墨画にも関心が移っていき、特に長谷川等伯の水墨画が好きで学んでいました。学生のころはそういった自分の関心を仕事にしようとは思わず、大学卒業後は会社に就職し、東京本社や大阪の支店などに異動もしながら、主に広告宣伝の仕事に約20年携わっていました。 広告宣伝の仕事は楽しくて居心地が良かったんですけど、やっぱり、私のお父さんも歳をとってきたというのもあるし、こういう古いものを売るということをやりたいという思いは持っていたので、妻と一緒に大阪から2012年にこっちに帰ってきて商売を始めたんです。 ——骨董品を扱うお店のお仕事というのは、どのような流れでどんなことをされていらっしゃるのですか?

憲一さん:朝は9時にお店を開けて、冬の時期は5時閉店で夏場は6時閉店ですね。仕入れのための外出がない日は、一日このお店で仕事をしています。

利里さん:地元の人から、「古いものあるから、ちょっと見てくれないか」と連絡をもらって訪ねて来くこともありますね。

憲一さん:そうだね。訪問依頼の電話が来たら、そこに行って品物を見に行くこともあります。 商品の仕入れはそういう地元のお家に行く場合と、「市」に行って仕入れる場合とがあります。滋賀や京都で、骨董屋さんが買い付けに集まる「市」というものがありまして、大体数字の”7”や”8”がつく日、「7,17,27日」とか「8,18,28日」に行われるんですよね。そういうところに出掛けて行って、そこで仕入れてきます。それ以外に10日と29日も最近は仕入れに行ってるかな。 利里さん:全部行ったら月に10回ぐらいになりますね(笑) 本当は地元から仕入れたもの中心にやりたいんですけど、品揃えに偏りが出ちゃうので、地元からは出ないような種類のものを市で仕入れるようにしています。

憲一さん:お客さんと話すなかで、「こういうものが欲しいんだよね」と注文を受けることも結構多くあるんです。常連さんになってくると、大体その方の好みも分かってくるので、あの方はこんなものが欲しいかなぁと思い浮かべながら仕入れを検討したり、お客さんに注文されなくても買ってきたりとか、そんな感じでやってますね。

利里さん:あとは骨董に限らず私たちは小さい物も好きなので、フェーブ(フランスで新年に食べる丸いパイ、ガレット・デ・ロワの中に入れる親指大ほどの陶器の人形)も最近仕入れてるんです。私たちが好きなものも仕入れてますよ。

 

長年の経験から磨かれた目利き いつもお客さんの顔を思い浮かべながら仕入れています

——いろいろなものを仕入れるなかで、品を見る目が磨かれるのではと思うのですが、お二人はどんな判断基準をもって仕入れをされているのですか。

利里さん:骨董屋として大事なのは古いものを見極める目なんですよ。古いもの見極める目って、良い古いものを見てないと養われなくてね。うちには陶器の良いものがあるので、たびたび目にしてるから、いいものはわかるようになりましたね。

憲一さん:最初は本を読んで、「この時代にはこういう特徴がある」というものをベースに品物を見るんですけど、高いものや人気のものだと偽物がたくさんあって。そういったときには、前に見た良い作品を頭に思い浮かべて、それと合致するかどうかを見て判断している感じですね。 有名でなくてもちゃんとした職人さんが作っている良いものを買うときは、自分のお店でいくらで売れるかなとか、常連さんの顔を思い浮かべて、あの人だったらこの辺で買ってくれるかなと想像して、それよりちょっと安い値段で買うみたいなことをやってる感じです。 だからそういう目利きも大事だけれど、買ってくれる人のことを思い浮かべて傷んでないかとかそういうところもきちんと確認するようにしています。 あとは、自分たちが欲しいかどうかですね。それだと偏りが出るし成り立たないんですけど、常連さんが好きかなぁと思って買って、最悪売れなくても自分たちも良い商品だと思っているから、まあ置いといたらえぇかというものもありますよね。 ——お二人がこれは好きだなって思う、この骨董品の魅力はどこにありますか。

利里さん:骨董品の魅力は、やっぱり年月を経た風格みたいなものがあるんですよ。ものって、100年も200年も経つと、自然といい感じに古びてくるんですよ。 たとえば、焼き物で比べると、30〜40年前のものは表面がピカピカしてるんですけど、200〜300年前のものだと表面の輝きが違うんですね。昔は真っ白にする技術がなかったから古いものはちょっと色がついてるんです。

憲一さん:この茶碗(写真右)は「こんにゃくばん」と言って、柔らかいものに模様を掘って印鑑を「ポンポン」押した素朴な茶碗なんですけど、これも一周回って時代を感じるというか、あまり残ってないものなんです。昔は安いものだったんですけど。 この象牙で作られたうさぎは、穴に紐を通して帯につけて、印籠とかたばこさじとかひっかけるようなものだったんです。こんな小さくて可愛らしいものが好きなので、こういうものをもっと扱いたいんですけど、あまり出なくなってきています。

 

——とても面白いですね!このような骨董品って、歴史の背景みたいなものを感じられるところが魅力なのかなと感じました。

憲一さん:そうそう。こういう手が込んだものをよくその時代に作ったなという感じがしますよね。

利里さん:骨董ファンの方は、その作品の背景にあるストーリーが好きな方も多いですね。昔の人はこんなふうにして使ってたのかなぁと想像したりとかね。あとは今の時代では作れないっていうのが一番の魅力ですね。今から作ろうと思っても作れない。お金では買えないものがありますよね。 ——器などの作品は地域性が現れると思いますが、骨董品から見えてくる近江八幡の地域性ってどんなものなんでしょうか。

憲一さん:近江商人は日本各地旅をして、そこで買って帰ってきたりしたものが残っていることが多いですね。なので、色々な焼き物や作品が近江八幡にあるのは特徴かもしれませんね。あと、昔は大きなお家で法事のときとか結婚式とか人を呼んで、食器一式を座敷に並べて行事をやってたので、そういったところで使われていたお皿などは残ってるんですよ。 ただ江戸時代後期になってくると、日本の焼き物の多くは瀬戸焼に移っていきますね。もちろん九谷焼とか、その地域の焼き物は特徴のあるものもありますよね。

 

——お二人はたくさんの知識をお持ちですが、どのようにして勉強されてきたんですか。

憲一さん:本をたくさん買って毎朝勉強してます。あとは、実際に購入して手元でじっくり見ないとそれが本当に良いものなのかどうかわからないこともあるので、家でじーっと見てますね。

利里さん:もう失敗するしかないんですよね。初期のころは市で騙されたこともありました。でも失敗しないと本当に成長しないので、それも勉強だと思っています。

憲一さん:「なんでも鑑定団」というテレビ番組がありますが、「これは本物、これは偽物」ってスパって言うじゃないですか。 この仕事を始める前は、そういう白黒つけられる世界だと思ってたんですけど、実際は、テレビに出るような有名な方の作品はあまり出回ってなくて、一般の人が使っていた普通の道具や作品が多いので、そんなにはっきり判断できものでもないし、作られた年代も結構わかりやすいものもあれば、グレーな部分もある世界なんだというところが面白いですね。 ——お客さん、常連さんというのはこのエリアの方ですよね。

利里さん:そうとも限らないですね。岐阜県とか三重県とか、隣の県の人も結構多いかな。あと、東京の人でも電話かかってきて、いいのが入ったら紹介してくれとかはありますね。

憲一さん:父と母についてるファンの方がいて、その人たちは父と母じゃないとだめなんですよ。やっぱり人なんですよね。

利里さん:ものを売るというよりも興味のある話をしたりとか、いろんな雰囲気がありながら「じゃあこれ買うか」ってなってくれるので。金額が高いものもあるし、そんなすぐにパッと決めて買うものじゃないから、信頼関係を培いながらコミュニケーションをとっています。質の悪いものは売らないだろうってお客さんから信じてもらえるように、お客さんが欲しいものや買って嬉しいもの、良い質のものを適切な値段で取り扱えることはすごく意識しています。  

お互いが紹介しあえるお店同士の関係性へ 商店街全体を楽しんでもらいたい

——お二人がここで仕事を始められて8年ほど経つなかで、色々社会の情勢も変わってきました。そういった変化を感じていると思いますが、これからの先の未来、この地域や商店街全体がどうなっていったらいいと思いますか。

憲一さん:うちのお店だけに来て帰っていかれるお客さんもおられますけど、せっかくここまで来たんだったら他にもいいお店があるから、そこも寄ってもらって、うちの常連さんが他のお店の常連さんにもなってもらったり、反対に他のお店の常連さんがうちのお店にも寄ってもらえたらいいなと思いますね。なので、お客さんから、このあと何か食べたいんだよねと聞いたら近くのお店を紹介したりということはしていますね。 お互いのお店を紹介しあえるように、これからも商店街の人同士の交流を持てたらいいなぁと思います。

利里さん:他のお店に行ったついでにうちにも寄ってくれるお客さんもいるんですが、うちの常連さんとは客層が全然違って、ファッショナブルで若い女性も来てくれたりして楽しいんですよね。そういったことが色々なお店で起これば、もっとこの商店街全体をお客さんに楽しんでいただけるのかなと思います。 それぞれが協力し合いながら、この地域や商店街全体がここすごく面白いよって沢山人が来たら自然と周りにも流れができていくだろうし、良いことだよね。  

—————編集後記—————

今回、取材をさせていただいて感じた中島多吉商店さんの魅力の一つは、店内の品も、中嶋さんご夫婦の考え方や姿勢もどちらも広く深く、かつ柔軟で、それに触れると自分自身の世界観や視野の広がりを感じられることだと思いました。 中島多吉商店さんのお店構えは風格があり、古美術品に詳しくない私はお店に入ること自体に緊張をしていたのですが、店内に入ってすぐ左に目をやると、小さくて可愛いフェーブコーナー、正面にはレトロで可愛い古布や着物が並んでいて、一歩お店に入るやいなや密かに心躍りました。そしてさらに奥に入ると、貴重な掛け軸や焼き物、当時の生活用品なども並び、普段あまり目にしない古美術品から受けるインスピレーションが、頭の中の時間幅を一気に広げていくような感覚はここでしか味わえないなと思います。 そして、中嶋ご夫妻は柔らかくて温かく、気さくに色々なお話しをしてくださいました。お二人の話はとても面白く、お二人とも本当にこの仕事が好きなんだなということが伝わってきました。お店に並んでいる品は、時代やお客さんに合わせて配置を変えたり、値段を下げたり、ラインナップを変えたりしているそうで、骨董品というものはずっと値段も立ち位置も変わらない重鎮のようなイメージがあったのですが、時代に合わせた柔軟な考え方や、姿勢を持たれていることも印象的でした。 ここあきんど道商店街周辺は、ゆっくり歩きながら古い町家や八幡堀などに目をやると、昔の風景が想起され、もしも数百年前にタイムスリップしたらこんな感じなのかなと想像しながら散歩を楽しむことができるまちなのですが、その散歩の途中で中島多吉商店に立ち寄ってお好きな古美術品を眺めてみると、その当時の人々の生活や風景にもっと思いを馳せられるかもしれません。そんな近江八幡での時間の過ごし方も素敵だなぁと思いました。 店内には、様々な種類の古美術品、アンティークの品が並んでいます。中島多吉商店でぜひ歴史とロマンを感じる時間をお過ごしください。  

 INFORMATION
中島多吉商店
〒523-0864 滋賀県近江八幡市為心町元22
TEL:0748-32-3888
HP:http://nakajimatakichi.com/