八幡帆布鞄/Cogocoro 田中秀樹さん

インタビュー企画「あきんど道商店街のヒト」は、近江八幡市の旧市街地(仲屋町(すあいちょう)・為心町(いしんちょう)・魚屋町(うわいちょう)・新町)に所在する「あきんど道商店街」と関わりのある「ヒト」へのインタビューを通じて、人や地域の魅力を伝えながら、商店街のより良い未来も考える企画です。

今回の「あきんど道商店街のヒト」は、帆布鞄と革小物のお店を経営する「八幡帆布鞄/Cogocoro」の田中さんにお話を伺いました。

海外でものづくり文化の魅力に出会い、近江八幡でお店を始められた田中さん。製品を作るだけでなく、お客さんの体験や付加価値の提供を念頭に置かれている田中さんのストーリーはワクワク、そしてほっこりするものでした。ぜひ最後までお楽しみください。

 

「旅行」×「ものづくり」の面白さと出会う

——まずはじめに、自己紹介をお願いしたいなと思うのですが、お店を始められたきっかけを教えてください。

田中:そもそも一番初めに就職したのが、旅行関係の仕事だったんですよね。私は旅行が好きで、営業職として6、7年くらい働いていて、海外にも仕事で行ったりしていました。海外に行くと、特にヨーロッパですが、ものづくり文化がすごく大事にされていたんです。そういった文化を目の当たりにして、ものづくりに憧れがあったのと、革製品も好きだったこともあって、京都のバイクのレーシングスーツを製作している会社に転職しました。

—— レーシングスーツを作るってすごいですね。

田中:私が製作していたレーシングスーツはフルオーダーなんですよ。一人ひとり測って、パターンも作るんですよ。全てのパーツを切って縫い付けて作っているんです。めちゃめちゃ細かい作業なんですよ。
納品後は、鈴鹿サーキットとか岡山サーキットに行って、レーサーがこけて破けたらその場で直したりもしていました。
そこではレーシングスーツを作るだけでなくて、いろいろなものを頼まれました。カバンや財布、ジャケットとか。全部オーダーメイドで作っていました。

——その後、近江八幡で 八幡帆布鞄/Cogocoroをオープンされることになったと思いますが、ご自身でお店を始めようと思った理由はなんですか?

田中:自分の経験から、「旅行」と「ものづくり」というのは、結構おもしろいと思っていて。旅行会社も面白くてインパクトのある仕事でしたし、ものづくりもまた面白かった。この2つを一緒にできるような場所で始めたいなと思ったんです。近江八幡は観光客が来ますし、この場所で滋賀県の素材を使えたらいいかなと思って、近江八幡を拠点にスタートしました。

——「旅行」×「ものづくり」がおもしろいと思ったのは、旅行会社で経験した海外での工場やものづくりの場を見るのが楽しかった経験から来ているんですか?

田中:確かイタリアだったと思うんですけど、自分がお客さんを連れてイタリアの観光地に行くじゃないですか。そしたら、向こうから日本人の若い男の人が来て、「うちに靴を買いに来てくれ」って言われたんです。どうしたのと聞くと、靴の職人になりたくて靴の工房に潜り込んだのはよかったけど、客を連れてこないと教えてもらえへん。だから、来てくれと。いやいや、うちお客さんが20人ぐらいいるけど、お宅のところに行って靴が完成するのいつなのと聞いたら、すごく時間がかかると。お客さん連れてそんな長い時間待ってられへんと思ったけど、でも、街にそういう文化があるのっていいなと思いました。かっこいいじゃないですか。

——おもしろいですね。日本だとオーダーメイドをする機会って沢山はないですね。

田中:オーダーメイドをする機会はあまりないですが、作るとその人にとって特別なものになるし、大事に使えるのがいいですよね。
私のお店では色を変えたり、サイズを変更したり、名入れをしたりなどのカスタムは受け付けております。少し変えるだけでもオンリーワンのアイテムになるので喜んで頂いております。

 

革製品に新たな価値を乗せて届けたい

——今お店には鞄や革小物など、さまざまな商品がありますが、お店を始めた当初はどの商品から始めたんですか?

田中:実は最初はレーザー彫刻の商品から始めました。お店を始めた8年前にはすでに革製品というのが行き渡っていて、なんでもあったんですよね。だからありきたりなものではなく、レーザー彫刻のような革製品に新しい価値を乗せた提案がしたかったんですよ。
当時、レーザー彫刻機という新しい機械が出てきていたんです。それを使えばオンリーワンの商品を一昔前よりも手軽に作れるんです。
うちのレーザー彫刻機はアメリカ製なんですけど、彫刻時の強さや早さ、解像度を変えられるので、より美しく仕上げることができます。これを買う前には大阪のファブラボに一年通って、どの機械がよいか研究しました。

こういう手書きの絵をレーザー彫刻するサービス(以下、写真)は、父の日などに注文が来ますね。

今の子どもはスマホやゲームがあって、紙に絵を描くことが昔に比べたら減ってきているかもしれないけれど、こういう一手間をかけるとか誰かのために絵を描くことってとても良いことだと思うんです。それをレザーの製品にのせて残していくと、おしゃれに飾れるし、残るし、消えないんですよね。そのまま経年変化もしていくし、味も出てきてなかなかおもしろいかなとは思うんですけどね。

そのあとに、この八幡帆布鞄というブランドを作りました。これが高島の帆布と革を使った商品(写真)になります。この鞄はうちの看板アイテムになってきていて、みなさん店舗に訪れて買ってくれます。

 

——八幡帆布鞄のトートバッグはブルーの印象が強いんですけど、何かこのカラーにこだわりがあるんですか?

田中:琵琶湖ブルーということで考えて製作しています。実は、最初は白い鞄やったんですよ。白地に青のライン、底の生地はキャメルで。ある時、八幡堀を歩いていたんです。八幡堀には、白い壁の蔵があって、その下に石の段があって、川がある。その情景を表現した3つの色のテーマを想像した時に、青色のほうがいいんじゃないかなと思って青にしたら、結構キャッチーだってみんなに言われて。これがうちの完全メインカラーになったんです。

——以前見せていただいた、近江牛のカードケースも素敵なブルーでしたね。

田中:はい、近江牛レザーを青色に染めて製作しています。ありがたいことにいろいろなところから評価をいただいています。

——田中さんは、レーザー彫刻を取り入れたり、斬新な色味を検討したり、新しいことをするのがお好きな方なんですか?

田中:新しいことのほうがおもしろいかなと思っていて。お店を商店街の方にも出したり、クラファンのチャレンジやふるさと納税にも商品を出したり。新しいことをすると、商品が足りなくなってくるので、製作のほうもちゃんとやらないとね(笑)

——お店にはどのような方が来られることが多いですか?

田中:メインは観光のお客さんが多いです。でも実際購入されるお客様は、商品によって違うんですよね。たとえば、鞄のような一般的なものは観光の方ですね。コロナ前には、体験工房もしていて、キーホルダー作りなど体験してもらっていました。体験工房は、若い方や近くのお客様もいらっしゃいます。でも、コロナ禍の影響もあって、近隣のお客様も全体的に増えました。いろいろな革製品や帆布製品がありますし、メンテナンスなんかもしますので、安心して購入していただいております。
ペットの写真を革に印字するサービス(写真)は、CreemaやMinneから注文をもらっています。

 

ここにしかないお店づくりで地域を元気に

——あきんど道商店街の方にも販売店を出されましたね。

田中:はい、あきんど道商店街にお店を出したのはよかったですよね。商店街のコミュニティに入って、いろいろ新しい繋がりもできました。お店同士の繋がりも強く、商店街を盛り上げていこうという良い雰囲気があります。今年、左義長まつりにも出ましたよ。

——商店街には新しいお店も沢山できてきて、盛り上がってきていると思うんですけど、今後商店街がこういうふうになったらいいなと考えていることがあれば教えてください。

田中:街を元気にするとかいろいろなところで言われて、みんなが考えていることやと思うんですけど、結局のところ、近江八幡やあきんど道商店街にしかない店をいっぱい作るというのが大事だと思うんですよね。
いくら近くに観光客が入ってくるっていっても、お店が面白くなかったら誰も来ないじゃないですか。街を元気にするって言ったって、どこにでもあるお店が近江八幡にいくつもあったとしても、それって街の元気なのかなと思うんです。そうじゃなくて、ここにしかない店がたくさんできるのが街の元気に繋がってくると思ってます。

そして、ここにしかないお店がたくさんできて、魅力的な仕事がたくさん増えることがとても大事だと思ってます。やりがいのある魅力的な仕事ができれば、わざわざ都会に行って無理な環境で仕事をして生活をする必要もなくなると思います。そうなって初めて地方が、街が元気になるのではないですかね。移住をする人も増えて、子供の数も絶対増えますよ。そうなれば、自然に元気になっていくと思ってます。

 

==編集後記==

今回の取材では、Cogocoroさんの工房と、商店街にある店舗にお邪魔をさせていただきました。工房では、田中さんをはじめ複数人のスタッフのみなさんはとても気さくな方々で、お店の商品がとても好きなんだろなと感じました。
商店街の店舗は落ち着いた雰囲気で、ゆっくり商品を見ることができます。あれもこれも欲しくなってしまう素敵な商品が並んでいます。
今回、田中さんのお話を聞きながら、旅先で買い物をすることのワクワクを思い出しました。
旅の途中で気に入ったものを購入すると、それは素敵な旅の思い出になるし、旅行が終わったあとも見る度に楽しかった瞬間を思い出せる。そんな体験ができるのも、田中さんが最後に話してくださった、ここにしかないお店を訪れることができるか、そこで良い商品と出会えるかだなぁと思います。
八幡帆布鞄/Cogocoroさんできっとお気に入りの商品が見つかると思います。近江八幡でゆっくり散策しながら、八幡帆布鞄/Cogocoroさんに立ち寄ってみてください。

 

INFORMATION

八幡帆布鞄/Cogocoro

【メインストア】
〒523-0862
滋賀県近江八幡市仲屋町中21
まちや倶楽部内
TEL| 080-9757-5899
営業時間|11時-17時
定休|木曜日
HP|https://cogocoro.com/

【cogocoro工房】
〒523-0821
滋賀県近江八幡市多賀町569番地
あきんどの里内
TEL| 090-5157-6485
営業時間|11時-17時
定休|木曜日