町屋じゅらく 北川忠男さん

インタビュー企画「あきんど道商店街のヒト」は、近江八幡市の旧市街地(仲屋町(すあいちょう)・為心町(いしんちょう)・魚屋町(うわいちょう)・新町)に所在する「あきんど道商店街」と関わりのある「ヒト」へのインタビューを通じて、人や地域の魅力を伝えながら、商店街のより良い未来も考える企画です。

今回の「あきんど道商店街のヒト」は、地元の食材をふんだんに使った料理を提供する「町屋じゅらく」の北川さんにお話を伺いました。

近江八幡で生まれ育ち、祭りやイベント、生業を通して地域を見てこられた北川さんは、何を大切に思い、これからの時代の商店街をどう見ているのでしょうか。お話を伺っていくと、あたたかくてユーモア溢れる北川さんの熱い想いが見えてきました。ぜひ最後までお楽しみください。

 

歴史と文化が残るこの場所で、賑わいを創りたい

——まずは、北川さんについて教えてください。近江八幡で生まれ育ったとのことですが、どのような経緯でお店を始められたのでしょうか?

北川:私が生まれたのは商店街の少し西側の池田町です。そこはヴォーリズさんの洋風住宅街がある通りで、僕は毎日そこを通って小学校へ行っていました。
この周辺の町は個性があって、商売人の町、為心町や鍛冶屋町は職人の町、と色合いが違うのが面白い。左義長まつりになるとそれぞれの町の特徴がわかるんです。そんな町が魅力的で、左義長まつりも大好きでこの町から離れたくないと思っていました。
そんななか、ご縁があって江戸時代の終わりごろに建てられた建物で「町屋じゅらく」をオープンしました。この建物を「今に生かしたい」と思い、自分の調理の技術を活かしながら、商店街の賑わいをもっと創れたら本望だと思っています。

——「町屋じゅらく」さんにはどのような方がいらっしゃいますか?

北川:いろいろな人が来てくれるけれど、「地元のことを聞きたい」とか「八幡せっかく来たんやで、ここらへんの情報網も知りたい」と言ってくれる人もいます。いろいろと聞かせてほしいとリクエストをもらったら、僕は延々と話します(笑)。
この前は、建築が大好きな女性二人が岡山から来ました。「あさが来た」というドラマに触発されて、ヴォーリズ建築を見に来たそうです。
「実はここは、ヴォーリスさんのアンドリューズ記念館というのがあって・・」など紹介すると、とても喜んで帰っていきました。僕がそういう話をすることは、オプションの一つですね(笑)。

——北川さんは昔の商店街のこともご存知だと思いますが、この周辺はどのような雰囲気でしたか?
北川:昔はスーパーがなかったので、商店街では市が開かれていました。大八車に物を積んできて、そこにズラーっと商品が並んで、それくらい賑わっていました。僕が子供のころは、「御朱印船祭り」で御朱印船の模型の下にゴロゴロとタイヤをつけて日牟禮八幡神社から市役所までパレードをしたり、子どもの左義長をつくってそのパレードに参加したり。
そういうような賑やかかりしこの40年代というのは凄く馬力があって、商店がいっぱいあって、イベント事をやると一番に皆さん出ていくような活気がありました。

——イベントやお祭りは地域のコミュニティを盛り上げる役割があったんですね

北川:人が集まる場所は、情報交換の場でもあるし、たとえば、左義長祭りで年に一回その日にしか会わへん人とも「おう!久しぶり!」と言って酒酌み交わす。
そういうことが起こるのがお祭りだし、人が集まる場所があれば、「今年も来たでー」って言って来てくれはる人もいる。そういうのもこういう地域ならではのやと思うんやけどね。
コロナで集まれる機会が減っているけれど、またお年寄りも懐かしんで来てもらえる何かイベントをやりたいなという僕の思いであって。その人等に支えられて今があるし、人との繋がりの下地がこの地域に根付いているから、人が集まれるような機会を創っていきたいと思っています。

 

時代が変わっても大切にしたいもの

——これからの「あきんど道商店街」やこの地域への想いがあればお伺いしたいです。

北川:僕は八幡で生まれ育って六十数年、そんな歳になってんねんけど、商店街に後輩がいないんです。後継者をどうやって育てていくかを考えていかないといけないと思っています。

ただ、今回コロナ禍でリモートワークが広がったことで、京都や大阪に行かなくても自分等みたいにここで根を下ろして働けるようになった。ここで商売が成り立てば、若い人たちが後を継ぐこともできる。生まれ故郷ってやっぱりいいもんやん、そこで仕事ができたらええよね。
だからこれを機に若い人たちが住み働けるようなシステムを作っていくということが必要だと思うんです。

——なるほど。次の世代を担う若者、後継者たちに伝えたいことや共有したいことが沢山あると思うのですが、その中で何を次世代に繋げ、伝承していけば良いと考えていますか?長い歴史の中で醸成された大事なものは取りこぼさないようにしながら、私たちは「何を大事にしたらいいんだろう」というのが私の一番の関心事です。

北川:僕は「魂」やと思うねん。ヴォーリズ精神であったり、近江商人の魂であったり。僕はいつも熱弁奮って熱くなるんやけど、その気持ちが一番大事やと僕は思う。近江商人は「一生懸命、金で稼いだものは世の中の為に使ってたんや」と。たくさんお金儲けしても、お金は持って死ねへんやん。それよりもそれをいかに使うか、使う方が大事だと思ってる。

守りたいものは、商店街のコミュニティとその景観

——「魂」が大事だと思ったきっかけはなんだったのですか?

北川:僕イベントが大好きで、何でかって言ったら、イベントを一つのきっかけとして賑わいを取り戻したいと思っていて。以前、新町のちょうどカーブにあった階段の対岸にステージを作って、夏の終わりに「たそがれコンサート」を開催したことがあって。お客さん1000人規模の大きさで、コンサートを継続するにも毎年費用がかかるし、演奏者を呼ぶのもお金がかかった。

その時にメンバーで「とにかく安くしてくれ」とお願いして、みんながボランティアのようなもので関わってくれたり、みんなで「何とかしようや!」言うと人は集まって来るねん。そこは「魂」やねん、だから。

——なるほど。そういった熱い想い、魂でひとや物事が動くんですね。
最後の質問です。時代によって町の風景や状況が変わっていく中で、これから先10年後、20年後ここの商店街がどういう姿になっていくと良いんだろうか。60年もここにいらっしゃる北川さんの視点から意見、お考えを伺いたいなと。

北川:最近この商店街の方もここへ来てしゃべる機会があるのでよく言うんねんけど「これは実現不可能」とみんな言わはるけども、僕がやりたいのは「この商店街を株式会社にしたい」っていつも言うねん。今後、後継者不足や店の閉鎖が起きるだろうと考えた時に、株式会社を窓口に商店街で働く若手を雇用して、商店街のどの店でも働ける仕組みにするとかも一つの手だと思うんですけど。若い人がバリバリ働ける環境を作ることが理想。

——「店を続けさせたい」というよりは、「守りたいもの」があるのではと思って今聞かせてもらっていました。

北川:守りたいものっていうのは、ここの商店街のコミュニティーであり、景観。一つ抜けると商店街の体をなさないわけや。

僕は先輩方といろんなお話をさせてもらって、自分の利益につながる知識をいっぱい教えてもらってきたんやけど、そういう人との関わりからは大きな影響を受けた。

そういった関係性がなくなって、次関われる先輩がおられないというのは地域が崩壊していく、結びつきが薄くなっていくよね。となると、やっぱり人と人との絆、そういうものを大事にしておかないと。

これが震災の時に出るわけやん。何かあった時、何かをしなあかん時、というのは物ではないねん。人なんや。そこが一番大事やから、ここが商店街として体をなすには、店を一つでも置いといてもらって、新しく作ってもらって、そこにコミュニティーを生んで、人との絆をいっぱい作って。一店が儲かっているようなところはダメなんよ。賑わいが戻ってみんなが儲からないといけん。

——北川さんは「町屋じゅらく」の他に宿をオープンされるそうですね。

北川:宿は新町でオープンするんだけど、新町には同級生や後輩、仲良くさせてもらっている方々が多くて。そこで工事していたら皆さんにご迷惑を掛けるので、ごめんね、迷惑かけてと挨拶に行くと地元の人が「宿いつオープンするの、見さしてや」っていつも通りはる時言われるねん。
「地元に見に来ていただく日を作りますので、来てなー」と言うと、「行く行くー」って言ってもらえる。同級生は「パンフレットはよ持って来いよ、配ったるで」と言ってくれたり。

——素敵な関係性ですね。

北川:でもやっぱり、もう後どれだけいられるか分からんけど、一生懸命することはして、楽しみたいねん。人から見たら「何かしんどいことやってんなー」と思いはるかもやけど、これが楽しいねん。張り合いあるやん。「クソっ」と思って、夜パソコンに向かってよ。ずっと延々勉強するのも楽しいやん。楽しもう。人生楽しまなあかんで。

——お話ありがとうございました。今日は北川さんのお話を聞いて元気が出ました。ありがとうございました。

 

==編集後記==

今回取材をさせていただいた「町屋じゅらく」さんの店内は、とても良い雰囲気で、古道具や古い絵などが飾られ、美術館のような長居したくなる空間です。その店内で北川さんのお話を聞かせてもらいましたが、終始北川さんのお話に笑ったり驚いたり、時を忘れあっという間に2時間が過ぎました。北川さんと話し始めた時には、どんな方だろう・・とドキドキしましたが、とってもとってもあたたかい方でした。地域の方々が「北川さん、北川さん」と尋ねたり頼りにされるのに納得です。

北川さんから近江八幡の昔の様子を聞くと、その風景が頭の中で再生され、とても興味深く楽しい時間でしたし、歴史の跡が多く残る近江八幡、あきんど道商店街をまたゆっくり散策してみたい気持ちになりました。
北川さんは左義長祭りや地域でのイベント、生業を通して信念を体現されているからこそ、「魂」の話、「人とのつながり」の話は、とても面白く聞いていて心が熱くなりました。
城下町にあるあきんど道商店街周辺には、歴史が色濃く残り、様々なストーリーがあります。あきんど道商店街に立ち寄った際には、ぜひ「町屋じゅらく」さんで食事をしながら、存分にこの空間、歴史を味わってみてください。「お宿じゅらく亭」さんも歴史ある町屋の雰囲気を体験できますので、ぜひ宿泊もしてゆっくり過ごしてもらえたらと思います。

 

INFORMATION

町屋じゅらく

滋賀県近江八幡市仲屋町中3
TEL:0748-36-6424
HP:https://www.oyadojuraku.com/food.html

お宿じゅらく亭

滋賀県近江八幡市新町4丁目41
0748-36-6424
HP:https://www.oyadojuraku.com/